最終回がバッドエンド(悲劇的結末、または救いのない結末)を迎える漫画は、物語の教訓を強く印象づけたり、現実の厳しさや人間の業を深く描いたりすることで、読者に強烈なインパクトと長い余韻を残します。ここでは、最終的な結末が明確に悲劇的、または主人公や世界の状況にとって救いのない形となったマニアックな作品群をご紹介します。
### 1. 主人公の破滅や救いのない終焉
物語の核心的なテーマとして、主人公やその周囲の努力が報われず、悲劇的な結末を迎える作品群です。
#### A. 『デビルマン』
* **作者:** 永井豪
* **連載期間:** 1972年〜1973年
* **結末の概要:** 史上最も衝撃的なバッドエンドの一つとして語り継がれています。デーモンとの戦いを通じて人類を守ろうとした主人公・**不動明(デビルマン)**は、最終的に自分がデビルマンであることを知った人類から敵視され、親友であった**飛鳥了(サタン)**の裏切りと、世界が滅亡に向かう壮絶な展開を迎えます。
* **結末の悲劇性:** 最終話では、人類のほとんどがデーモンとの戦いで滅亡し、デビルマン軍団もサタン率いるデーモン軍団との最終決戦に敗北します。愛する者、守るべき世界、そして自らの居場所すべてを失った明は、サタンの腕の中で絶命します。最後にサタンが、滅亡した地球を見下ろしながら、**「愛」**という感情を理解できずに慟哭する姿は、読者に深い絶望と虚無感を植え付けます。これは、単純な悪の勝利ではなく、愛と憎しみ、そして人間の無知と排他性がもたらした普遍的な悲劇として描かれています。
#### B. 『なるたる』
* **作者:** 鬼頭莫宏
* **連載期間:** 1998年〜2003年
* **結末の概要:** 宇宙から飛来した謎の生命体「竜の子供(なるたる)」と、それに同調する子供たちが織りなす物語ですが、その結末は極めて陰鬱です。主人公・**玉依シイナ**は、世界の終末と、自己の存在の危うさという現実を突きつけられます。
* **結末の悲劇性:** 物理的な世界の崩壊というよりも、**精神的な世界の崩壊**が描かれています。作中では、理不尽な暴力、絶望的な孤独、そして人間の残酷さが徹底的に描かれ、最終的に、シイナが生き残るために選んだ道は、多くの犠牲と、世界の悲劇的な再構築を伴います。読者にとって、登場人物たちが経験した苦痛や、世界のあり方が根本的に破壊された事実は、救いとして受け止めがたいものです。
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### 2. 社会的・集団的な破滅と希望の喪失
個人だけでなく、所属する集団や社会全体が悲劇的な運命をたどり、希望が打ち砕かれる結末を持つ作品群です。
#### A. 『火の鳥 鳳凰編』(未来編の要素も含む)
* **作者:** 手塚治虫
* **連載期間:** 1967年〜1988年(連載時期は作品により異なる)
* **結末の概要:** 手塚治虫のライフワークである『火の鳥』は、輪廻転生をテーマに、様々な時代を描きますが、特に**「未来編」**や**「鳳凰編」**の結末は、人間の業や文明の末路を悲劇的に描いています。
* **結末の悲劇性:** 例えば、「未来編」では、主人公たちが核戦争や文明の崩壊を生き延びようとしますが、最終的に人類は滅亡し、生命は進化を繰り返して新たな形態となります。これは、個人の死を超えた**人類という種の無意味な繰り返し**と、**文明の宿命的な破滅**を示唆しています。火の鳥自体は不死ですが、人類の努力や愛憎が、最終的に虚無に帰す描写は、深い諦念と悲劇性を伴います。
#### B. 『最終兵器彼女』
* **作者:** 高橋しん
* **連載期間:** 1999年〜2001年
* **結末の概要:** 突然、**「最終兵器」**となってしまった女子高生・**ちせ**と、彼女の恋人である**シュウジ**との、戦争下における悲恋と世界の終末を描いた物語です。
* **結末の悲劇性:** ちせは、愛するシュウジを守ろうとすればするほど、巨大な兵器としての能力が覚醒し、人間性を失っていきます。彼女の存在そのものが世界の戦争を激化させ、最終的にちせの力によって**世界は文字通り滅亡**します。最後の生存者となったシュウジが、ちせの残した唯一の痕跡を抱きしめながら生きる姿は、希望の余地を一切残さない、**愛の成就と世界の滅亡が同時に起こる**という、究極のバッドエンドです。
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### 3. マニアックな視点からの救いのない結末
物語の構造やテーマ自体が、読者に心理的な圧迫感を与え、救いを見出しにくい結末を持つ作品です。
#### A. 『星を継ぐもの』
* **作者:** ジェイムズ・P・ホーガン(原作小説) / **作画:** 星野之宣(漫画化)
* **連末の概要:** 壮大なSFミステリーですが、結末は人類の運命や存在意義に対する**根源的な虚無感**を伴います。人類の起源や宇宙の歴史を探る旅が、最終的に、人類が**より巨大な知性体や過去の文明の「道具」**に過ぎなかったという真実を突きつけます。
* **結末の悲劇性:** 物理的な滅亡ではないものの、人類が自らを特別だと信じていた根拠が覆され、**知的生命体としての「希望」や「自由な未来」が、遙か過去に設定されたプログラムの一部**であったという真実は、精神的なバッドエンドとして強く機能します。これは、読者に自己の存在意義について深い問いを投げかける結末です。
これらの作品は、単に「主人公が死ぬ」といった表面的な悲劇ではなく、**登場人物たちが物語を通して追求した価値や信念が否定され、希望が打ち砕かれる**という、テーマや世界観そのものが持つ救いのなさを描いている点で、バッドエンド漫画として語り継がれています。